シリーズ★2025年のツバメを振り返る①「50日抱卵した巣でヒナが孵った」

2025年のツバメ観察で、いちばん印象に残ったのはJR国立駅で子育てした通称「スピーカー裏ちゃん」です。私たちはツバメの家族を「場所の名前+ちゃん」で呼んでいて、建物に巣がひとつだと「●●医院ちゃん」、駅のようにたくさん巣がある場所だと「カメラ上ちゃん」や「スピーカー裏ちゃん」というような命名になります。

さて、国立駅はツバメに人気の場所なので、他のツバメより遅くにやってきたスピーカー裏ちゃんは巣を作れる場所に空きがなく、なかなか巣作りを始められませんでした。よほど困ったのでしょう、普通なら巣場所にしそうにないスピーカーと壁の隙間に巣を作り出し、抱卵を始めたのが5月20日ごろでした。ところが、狭い場所に巣を作ったので卵の上に座ることができないらしく、親ツバメは身体を斜めにして抱卵していました。

ツバメの卵は、普通は2週間前後の抱卵で孵化します。でも、スピーカー裏ちゃんは親のお腹が卵に密着しないためなのか、2週間過ぎても、3週間過ぎても、1ヶ月過ぎてもヒナが孵りませんでした。それでも親ツバメはあきらめず、斜めの姿勢で抱卵を続けていました。私たちは、もう卵は死んでしまっているだろう、親がはやく諦めて巣から離れてくれないかと祈るような気持ちでした。ところが抱卵開始から約50日が経った7月8日、親ツバメがスピーカーの上で逆立ちしている姿が見られました。

なんと、ヒナが産まれたようです。でも親のくちばしが巣の縁からヒナに届かないので、真上から食べものをあげているようでした。ヒナが孵り、親鳥の苦労が報われたのはよかったのですが、今度はヒナが食物をもらえているのかが心配でした。でも、大丈夫でした。産まれたヒナは1羽で、親鳥の愛情を一身に受けてすくすく育ち、7月29日にプチ巣立ちをして、数日後には両親と姿を消しました。抱卵中に鏡で巣を調べていますが、産み落とされていた卵も1つだけでした。

この写真は餌をもらっているヒナです。ひとりっ子のヒナは十分に餌をもらえるおかげで胸筋が発達して首が太く見えます。兄妹と競って餌をねだる必要もないので、ほとんど声を出しません。でも、近くの巣のヒナが大きな鳴き声で餌乞をしていると気になるようで、その巣は直接は見えない位置にありましたが、そちらの方向に身体を向けて耳を澄ましているようでした

一般的なの抱卵期間の2週間を大幅に過ぎても、ヒナが孵化することが分かりました。みなさんが見ている巣でも、なかなか孵化しなくて気をもむことがあるかもしれませんが、ツバメの強い生命力を信じて見守りを続けてあげてください。

(神山和夫)