越冬ツバメの報告をたくさんいただいていて、こちらのページにまとめています。バードリサーチなどが行った全国鳥類越冬分布調査では、1980年代にくらべて近年は越冬ツバメが見つかる場所が北へと広がってきていることが分かっています。昔より日本の冬が暖かくなったためでしょう。従来から越冬していた地域でも、数が増えているのではないでしょうか。

ツバメの越冬分布(全国鳥類越冬分布調査報告書より)
ツバメほど多くはありませんが、コシアカツバメやイワツバメも日本で越冬しています。でもツバメの仲間は、春に日本へ渡ってきてヒナを育て、そのあと8-9月にはヨシ原のねぐらを移動しながら南へ移動する渡り鳥のはずではないでしょうか。昆虫を主食にしている野鳥には、食物が乏しくなる冬を生き抜くために熱帯地方へ渡る種が多くいます。しかしそうした昆虫食の渡り鳥の中で、ツバメの仲間にだけ少数ながらも越冬する個体が見つかるのはなぜでしょうか。
越冬には2つのタイプがある
日本で越冬するツバメには2つのタイプがあります。ひとつめは言葉どおり冬を越すという意味での越冬ツバメです。上記の分布図に見られるように、ツバメは主に関東より西で越冬が見つかります。季節によって移動する鳥のうち、海外まで移動する種を「渡り鳥」、日本国内で北から南、高地から低地へ移動する鳥を「漂鳥」と呼んでいます。距離によって呼び方が違うだけで季節移動をすることには変わりませんが、ツバメには渡り鳥型だけでなく漂鳥型の集団もいるのでしょう。ツバメは九州ではかなりの数が越冬していて、とくに熊本、鹿児島、宮崎では冬でも普通に見られます。越冬するツバメは数羽から数百羽の群れでねぐらに集まり、ねぐらとして知られているのは人家や倉庫、納屋などの建物で、夏から秋の渡り時期に見られるようなヨシ原の冬ねぐらは知られていません。

商店のテント下をねぐらにしている越冬ツバメ(宮崎市 2017年12月)
越冬の二つ目のタイプは、留鳥の疑いがある越冬です。このタイプは10-11月につがいで巣にやって来ます。このようなツバメには秋冬にもヒナを孵すつがいがいるのですが、これはツバメが留鳥になる過程で体内のホルモンバランスがおかしくなっているせいではないかと推測しています。この先も留鳥化が進むのなら、こうしたハプニング的子育てはなくなっていくのではないでしょうか。
「留鳥」の定義は、長距離の季節移動をしないで同じ場所に留まり、さらにその性質が子どもにも引き継がれていることで、少なくとも九州南部ではツバメの留鳥化が確かめられているようです(ツバメのひみつ 長谷川克)。それ以外の場所では、つがいで越冬したツバメが同じ場所で春に繁殖を始めたかまで追跡した例はなく、私が知っているのは以前のブログで紹介した2024~25年に横浜市で越冬したつがいが、2024年11月にヒナを孵したあとも同じ巣に留まり、3月まで同じ場所にいるのが観察されていたという事例だけです。このツバメが繁殖したかまでは分からないのですが、秋から春までつがいが巣で暮らしていたことは留鳥化がはじまっている可能性を示していると思います。みなさんが越冬した巣で繁殖を始めたツバメをご存じでしたら、ぜひ教えてください。

冬につがいで巣にいるツバメ(宮崎市 2017年12月)
渡りの習性を変えられるのか
冬は餌の飛翔性昆虫が少ないので、ツバメは春までに命を落とすリスクがあります。特に寒波が来る年末年始の時期は危険が高いでしょう。一方、海を越えて東南アジアまで渡る旅もリスクがあります。温暖化によって越冬のリスクが渡りのリスクを下回るなら、越冬した方がよいことになりますが、渡りの習性は遺伝子レベルで組み込まれているので、もし留鳥になったほうがメリットがあるとしても、簡単に習性を変えられるものではありません。野鳥の体には1年周期の体内時計があり、「ヒナを育てたい」「渡りたい」という衝動を正しい時期に感じるようになっているからです。体内時計の仕組みは分かっていませんが、おそらくホルモン分泌が日の長さの変化の影響で変わり、季節に応じた行動をするようになっているのでしょう。多くの渡り鳥の体内時計は正確で、毎年同じ時期に渡りを開始して、同じ時期に繁殖地や越冬地に到着します。しかし考えてみると、ツバメは3月から姿を見せはじめ、5月まで数が増え続けるように思います。日本にやって来る集団全体の中で渡り時期の幅があることは、個々のツバメも状況に応じて渡り時期を変える柔軟性があるのかもしれません。そしてその究極が、渡りをやめてしまうことなのかも。
日本でツバメは留鳥になる? 越冬情報を集めています
私たちは温暖化が進む日本で、越冬するツバメの増加と、その一部が留鳥になっているかを知りたいと思っています。こちらに報告フォームがありますので、越冬ツバメをご存じの方は、ぜひ教えてください。そしてもし冬につがいで巣にいるツバメを見つけたら、春にその巣で子育てを始めるかまで観察してもらえたらうれしいです。
今年の冬は寒さが厳しく、越冬つばめたちも苦労して虫捕りをしていることでしょう。温暖化は決して歓迎することではありませんが、ツバメたちが生き延びられることを願ってやみません。(神山和夫)


