ツバメは唾液のムチンで土をくっつけて巣作りする

土で作られているツバメの巣が、どうしてこんなに丈夫なのか不思議に思ったことはありませんか。ツバメが集めるような地面の表面にある土は粘土のような粘性がなく、濡れているときは団子状になっても、乾くとボロボロになってしまいます。ツバメはつなぎとして草の茎や根を混ぜ込みますが、それだけで巣の強度が保たれるのではありません。何かが土の粒どうしをくっつけているのです。ハーバード大学のYeonsu Jungさんらが2020年に発表した論文では、ツバメの巣で接着剤の役割をしている物質は唾液に含まれるムチンだと推測しています。ムチンは多くの生きものが出す粘液質に含まれる物質で、人の唾液や涙にもムチンが含まれています。ツバメは巣を作るときに土と唾液を混ぜ合わせます。そして水分が乾燥すると土の粒と粒の間に極小のムチンの橋が形成されるので、土の粒子どうしが強く結合されるのだそうです。ちなみに、中華料理で使われる「ツバメの巣」はアナツバメという鳥の巣ですが、これはムチンを含む唾液だけで作られています。この食用の「ツバメの巣」の写真を見てもらうと、ムチンが丈夫な素材であることが分かると思います。

食用のツバメの巣(写真 Reforma.imufomot

さて、このYeonsu Jungさんらの研究では、ツバメの巣の強度を調べるために巣の背面を接着剤で壁に付けて巣に真上から重みを加える実験を行っています。すると巣は約4kgの重さまで耐えることができ、さらに巣から取りだした土の粒を押しつぶす実験でも、ほぼ同程度の重さに耐えることが判明しました。次にムチンの接着効果を調べるため、ツバメの巣作りを模して直径0.25mmのガラスビーズに豚の胃から取り出したムチンの水溶液を混ぜ、乾燥後に強度を測定したところ、ムチンの濃度が4.9 g/Lのときに本物のツバメの巣に近い強度になったそうです。この濃度のムチン水溶液はほとんど粘りがなく、水と同じくらいサラサラしているので、ツバメの唾液は泥に浸透しやすく、それが乾いて無数の橋渡し構造を形成することで強い接着力を発揮するのでしょう。

Yeonsu Jung et al. 2020. CC BY-NC-ND 4.0

親ツバメとヒナ5羽の体重が各18gとしたら、全員で126gになります。巣そのものの重さを入れても500g程度でしょうから、4kgの重さに耐えられる巣は十分な強度を持っていると言えるでしょう。実際には、ツバメの巣はそれ自体が壊れるよりも壁から剥がれて落下する事故が多いのですが、ムチンの微少なブリッジ構造で接着するという性質を考えると、表面がなめらかな壁との接着強度は弱くなると考えられます。ツバメの巣は、珪藻土のような土の粒子が表面に出ている壁との接着力が最も強くなるはずです。

この巣は鉄製の土台の上に作られ背面も鉄製の壁だった。巣の背面は壁には接着できていなかった

ところで、Yeonsu Jungさんらの研究ではツバメの巣に炭素が含まれていることを見つけ、それが唾液由来の有機物だと推測していますが、ムチンなのかまでは解明していません。ツバメの巣を丈夫にしているのが本当にムチンかという肝心なことが、この研究では証明されていなかったのです。しかし2023年に発表された日本の亀岡高校自然科学部の研究で、ツバメの巣にはムチンが含まれていることが判明しました。亀岡高校の生徒たちが「糞便ムチン測定キット」というものを使って、ツバメの巣とコシアカツバメ巣の土に含まれるムチンを測定したところ、両種の巣からムチンが検出され、さらにコシアカツバメの巣ではツバメの巣の10倍近いの量のムチンが計測されたのです。両種は同じ場所で土を集めていましたが、その地面で採取した土からはムチンは検出されなかったため、巣に含まれていたムチンは唾液由来だと考えられます。生徒たちは、コシアカツバメはツバメのように土に草の茎や根といったつなぎを混ぜ込まないため、巣の強度を保つにはツバメよりも多くのムチンが必用なのではないかと推測しています。

 

この2つの研究から、ツバメの巣にはムチンが含まれていることと、ムチンを混ぜた土は接合強度が強まることが分かりました。さて、残された研究のパーツはツバメの唾液にムチンが含まれているかということですが、まだそれを調べた人はいません。

(神山和夫)

 

参考文献

Yeonsu Jung et al. 2021. Avian mud nest architecture by self-secreted saliva. PNAS 118(3) e2018509118
https://doi.org/10.1073/pnas.201850911

 

亀岡高校自然科学部. 2023. ツバメの巣に含まれる「ムチン」は巣の強度の向上に貢献しているのか. 中谷医工計測技術振興財団科学教育振興助成 2023年度成果報告書 161-164.