ツバメは害虫を食べるから益鳥だと言われます。でもツバメがどんな虫を食べているか調べるのは難しくて、じつはツバメが害虫をよく食べているという証拠は見つかっていませんでした。ところが、最近はツバメのフンに含まれる虫の断片のDNAを分析できるようになり、どんな虫を食べているかが詳しく分かるようになってきたのです。
DNAの分析方法は、コロナの検査で鼻の奥を綿棒で拭って粘膜にウイルスのDNAがあるかを調べる検査をしていた、あの方法です。コロナ検査に使っていたのと同じタイプの装置でツバメのフンに混じる虫のDNA配列を読み取り、それをたくさんの虫のDNA配列を記憶しているデータベースと付き合わせて一致する虫を調べるのです。このような検査装置は、いまでは大学などで普通に使えるものになっています。
そうした研究によると、ツバメは羽アリやハエをよく食べているというのは私の想像通りだったのですが、カメムシや小さな甲虫もよく食べていて、こうした虫の仲間には農作物の害虫が含まれています。ということは、ツバメはこれまで言われていたように、害虫を退治してくれている益鳥で間違いなさそうです。
さて、人類が自分を棚に上げて他の生きものを「害」と呼ぶのは身勝手ですが、このごろ身の回りに、見慣れない「害虫」が発生するようになってきました。チュウゴクアミガサハゴロモという体長1.5cmほどの外来種で、全国的に発生しているようです。この虫は成虫も幼虫も植物の汁を吸うので、畑の作物が汁を吸われてしおれてしまうことがあるそうです。

私たちが住んでいる東京西部の多摩地域で、チュウゴクアミガサハゴロモがたくさんいるなと気付いたのは2024年の夏ごろでした。死骸がよく落ちていて、野外にいると身体にとまったりもします。ツバメの巣の下にも、ヒナが受け取り損ねたこの虫が落ちていました。そして今年もチュウゴクアミガサハゴロモの発生は春から秋まで続き、さらに時おり大量発生する時期があって、そういうとき親ツバメは、巣から飛び出しては、くちばしからアミガサハゴロモの羽をはみ出させて、すぐまた巣に戻ってくることを繰り返していました。

ツバメが2番子を育てる6月下旬から8月は餌になる飛翔性昆虫が少なくなりますが、この暑い季節にもチュウゴクアミガサハゴロモが大量にいるのを見ました。2番子を育てる親ツバメや、渡りに備えて栄養を蓄えるツバメたちにとって、この新たな外来種は貴重な食料になったはずです。
さて、ツバメが大量に餌にしているということは、裏を返せばツバメがこの”害虫”の数を抑えていることも意味します。ツバメは巣から数百メートル圏内で虫捕りをして、ヒナが大きくなると1日300回も虫を運びます。それも1回に虫1匹ではなく、小さな虫は口からノドまでいっぱいにして持ち帰るのですから、ツバメの巣が5~10個ほどあれば、その周囲ではツバメがいない場合に比べて飛翔性の虫を見かけることが少なくなるでしょう。
ツバメが食べる量くらいでは昆虫の全体量をにはほとんど影響がありませんが、”害虫”で家に入ってくるのも嫌われるカメムシや、木造住宅を食べるシロアリの羽アリ、あまり害はないのですが不快に思われてしまうハエなどが、ツバメの巣が多い近所では数が減ることでしょう。ツバメの益鳥としての働きは、蚊取り線香を焚いているような効果に近いのではと思います。逆に、屋外につるすタイプの虫除けなどで飛翔性昆虫を減らしてしまうと、ツバメも住めなくなります。人にとっての”害虫”もいてこそ、食物連鎖が起きて、いろんな生きものが暮らせることを忘れないでください。
(神山和夫)

